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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)73号 判決

事実及び理由

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1  その1の主張について

原告は、審決が、引用した先行技術に係る「甲号各証には、いずれも、本件実用新案の構成要件の一部である『竪長加熱容器の上下を後方で細管により連通した熱処理装置において、小容器をして細管の上方位置に存せしめ、ガス抜管を小容器内に挿通した』(以下「構成要件A」という。)という具体的構成が記載されていない。」としたのは誤りであつて、甲第七号証(特許庁甲第五号証)、甲第八号証(特許庁甲第六号証)には、そのような構成が記載されていると主張する。

(甲第七号証について)

成立に争いのない甲第七号証によれば、構成要件Aのうち、『ガス抜管を小容器内に挿通した』との点を除くその余の構成が同号証の第二図に示されていることは明らかである。

そこで進んで、右『ガス抜管を小容器内に挿通した』構成が記載されているか否かについて検討する。同号証の発明の詳細な説明の項には、「小容器9あるいは9内の上部に分離蓄積した水は必要に応じて小容器の上部に細管を連通して器外に取り出し、後、細管を塞ぐことも差支えない。」(第二頁右欄第一三行~第一六行)と記載され、蓄積した水を装置の系外に取り出すために、小容器に細管を連通することが示されている。

そうすれば、甲第七号証のものには、「小容器の上部に連通した細管」(以下、これを「引用細管」という。)が示されているのであるから、さらに進んで、この引用細管が示されていることによつて、本件実用新案の「小容器に挿通したガス抜管」(以下、これを「本件ガス抜管」という。)の構成が記載されているとすることができるか否かについて検討する。

この点について、原告は、甲第七号証には水蒸気(気体、すなわち、ガス)を器外に取り出す細管を設けることが記載されている、換言すれば、引用細管はガス抜管である旨主張するが、前出甲第七号証によれば、その発明の詳細な説明の項には、「小容器9あるいは9′内の上部に分離蓄積した水は必要に応じて小容器の上部に細管を連通して器外に取り出し……」と記載されているだけで、水蒸気(すなわち、ガス)を器外に取り出す旨の直接の記載はない。

しかしながら、前出甲第七号証によれば、同号証のものは、加熱装置の長時間使用により析出した、熱媒液より低沸点物質である水蒸気が加熱密閉容器の上部に蓄積し、容器上部の温度を降下させて加熱を阻害する従来の欠点を改良したものであり、加熱密閉容器の上部に蓄積した水蒸気を小容器に取り出し、熱媒液と分離蓄積し、熱媒液は加熱密閉容器に還元する一方、水蒸気は、凝縮し水として装置の系外に細管を介し排出するようにしたものであることが認められ、その効果については、「実際使用の場合は、始めより絞り8、8′を極く僅か開けておけば、上記動作を漸次繰返して密閉容器の上部の温度降下を起さずに密閉容器内の熱媒液の含有水分は完全に小容器内に分離蓄積されて密閉容器に入らない。よつて、密閉容器は長時間使用するも、常に均一加熱ができる特徴がある。」(第二頁左欄第二九行~右欄第三行)、「水蒸気は密閉容器の上部の比較的大なる体積を占めた場合でも、凝縮すると僅量に過ぎないので、ほとんど小容器9内に排出して、密閉容器上部の温度は上昇し、均一温度となる。」(第二頁左欄第一二行~第一五行)と記載されていて、密閉容器の上部に蓄積する水蒸気が排除されれば、密閉容器中の熱媒蒸気の循環が良くなり、加熱容器を均一に加熱する効果を奏することが示されている。

その上、前出甲第七号証には、熱媒液には低沸点物質のほかにガスも含まれており、これが加熱作用に悪い影響を与えるので、これを除く必要のあることが記載されている(第一頁左欄第一六行~第二七行、第二頁右欄第一七行~第二一行)。

以上の点を考慮して、これを本件実用新案と比較すると、甲第七号証のものと本件実用新案の両者は共に、加熱容器の上部に滞留するものには、程度の差はあるにしても、不凝結ガスも水蒸気もいずれもが含まれていると解せられるのであつて、本件実用新案のものが不凝結ガスだけであるとすることも、また、甲第七号証のものが水蒸気だけであるとすることもできない。両者共に、加熱容器の上部から小容器に除去されるものは同じであり、作用効果に差異はないというべきものである。

次に、小容器に蓄積されたものを装置の系外へ排出する点について検討するに、引用細管は、小容器の上部に連通されており、そのように上部に限定されているのは、熱媒液よりも水が軽くて小容器中で水が上部に分離しているからであり、同時に、熱媒液を装置の系外に排出しないようにするためと解せられる。そうすれば、装置の系内に不凝結ガスがあるときには、これは気体であるから、小容器中で水よりも更に上部に存在することになり、引用細管による排出方法が明示されていなくても、熱媒液の上部に存在するもの、すなわち、水と不凝結ガスとが、排出されるのは当然のことである。換言すれば、引用細管は、装置の系内に空気その他の不必要なガスが存在する限り(全く存在しないという事実を認めるべき証拠はない。)、小容器を介して、加熱容器の上部から空気その他の不必要なガスを装置の系外へ排出除去できるものであつて、本件ガス抜管と同じ機能を有するものである。

そうすれば、引用細管と本件ガス抜管とは、その機能に差異がなく、引用細管において「小容器の上部に連通する」ように構成することと、本件ガス抜管において「小容器に挿通する」ように構成することとの構成上の差異は、格別顕著な作用効果の相違も認められないから、精々設計上の微差があるに過ぎないものであり、結局、甲第七号証には構成要件Aの構成を具備したものが記載されていると認めるのが相当である。

この点についての審決の判断は誤りであり、原告の主張は理由がある。

2  右1の点についての審決の判断の誤りがその結論に影響を及ぼすものであることは、審決の理由に徴して明らかであるから、原告のその余の主張について判断するまでもなく、審決は、違法として取消を免れない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕本件における実用新案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本件実用新案の要旨

前面に竪方向の溝6を設け内部に熱媒蒸気を収容する蒸気室7を形成した竪長容器5の上下両部をその後方において細管で連通し、蒸気室7に発生した不凝結ガスを細管に導き、これに設けた小容器10に集めるようにした合成繊維の熱処理装置において、上記細管の上部に横に長い太い上部パイプ1を設けて短いパイプ8によつて蒸気室7の上部に連結しここの不凝結ガスが直ちに上部パイプ1に入るようにし、また、上記細管下部に電熱シーズヒータ4を内蔵し、熱媒液3を入れる筒状加熱容器2を設けてその底部と細管下部とを連通し、該筒状加熱容器2の上部と竪長加熱容器5の下部とを短いパイプ9で連通し、小容器10をして細管の上方位置に存せしめ、ガス抜管13を小容器10内に挿通して小容器10内の不凝結ガスをガス抜管13を通して排出できるようにした合成繊維の熱処理装置。(別紙第一図面参照)

審決の理由の要点

本件実用新案の要旨は前項記載のとおりである。

請求人は、本件実用新案は、その登録出願前に頒布された刊行物・甲第三号証ないし第七号証(特許庁甲第一号証ないし第五号証)に記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであつて実用新案法第三条第二項の規定に該当し、又は、本件実用新案の登録出願前に公然知られた甲第八号証(特許庁甲第六号証)と甲第三号証に基き当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであつて同法第三条第二項の規定に該当し、したがつて、本件実用新案の登録は同法第三七条第一項の規定により無効とすべきものであると主張した。

甲第三号証(特公昭四三―一五五八三号特許公報)には、前面に竪方向の溝を設け、内部に熱媒液及び熱媒蒸気を収容する蒸気室を形成した竪長容器の上下両部をその後方において、細管、小容器、細管の順で連通し、蒸気室に発生した低沸点物質と熱媒の蒸気を小容器に排出するようにし、小容器内に低沸点物質溶液と熱媒液を分離して溜め、熱媒液を元の容器内へ返し、熱媒液をシーズヒータにより加熱する熱処理装置が記載されており(別紙第二図面参照)、

甲第四号証(ドイツ特許第一〇〇〇七九〇号明細書)には、熱処理を行う二重套の上方を凝結器に上部パイプにより連結し、該二重套の下部を蒸発器に下部パイプにより連結し、凝結器と蒸発器とを前記下部パイプを介して連結し、蒸気を凝結器で凝縮し、凝結した液体を蒸発器に戻し、蒸発器で熱せられた蒸気のみを二重套に送る装置が記載されており、

甲第五号証(米国特許第二八二〇二八〇号明細書)には、加熱用カンをヘツダと帰還路にそれぞれパイプにより架橋結合し、充満した油等の加熱媒体を循環するものが記載されており、

甲第六号証(「熱媒体」日刊工業新聞社発行)には、熱媒体蒸気の伝熱効率を向上し、熱媒体の劣化を防ぐために容器に空気及びガスを抜く管を設けることが記載されており、

甲第七号証(特公昭四一―一二二七四号特許公報)には、加熱中、加熱密閉容器上端に細孔をあけて上部に蓄積した低沸点蒸気を細孔より追い出して後細孔を塞ぐこと及び小容器の上部に分離蓄積した水は必要に応じて小容器の上部に細管を連通して器外に取り出し後細管を塞ぐことが記載されており(別紙第三図面参照)、

甲第八号証(熱処理装置の本体組立図面)には、前面に竪方向の溝を設け内部に熱媒蒸気を収容する蒸気室を形成した合成繊維の熱処理装置において、横に長い太い上部パイプを設けて短いパイプによつて蒸気室の上部に連結し、また、細管下部に電熱シーズヒータを内蔵し、熱媒液を入れる筒状加熱器を設けてその底部と細管下端とを連通し、該筒状加熱容器の上部と竪長加熱容器の下部とを短いパイプで連通し、ガス抜管(フカシパイプ)を上部パイプに設けた熱媒を封入密封した合成繊維の熱処理装置が記載されている。

まず、本件実用新案と甲第三号証ないし第七号証に記載のものとを比較すると、これら甲号各証には、いずれも、本件実用新案の構成要件の一部である「竪長加熱容器の上下を後方で細管により連通した熱処理装置において、小容器をして細管の上方位置に存せしめ、ガス抜管を小容器内に挿通した」という具体的構成が記載されていない。すなわち、甲第三号証に記載のものは、加熱容器の後方に細管を設け、細管の途上に小容器を設けてはいるが、小容器中には分離した低沸点物質溶液が貯蔵されるだけで、小容器にはガス抜管もなく、前記溶液も排出されない。また、甲第七号証に記載のものも、加熱容器の後方に連通した細管の途上に小容器を設けてはいるが、該小容器に蓄積した水を細管から取り出すものであり、不凝結ガスを抜くものではなく、ガス抜管を挿通した小容器を備えていない。

次に、本件実用新案と甲第三号証及び甲第八号証に記載のものとを比較しても、これら甲号各証には、いずれも、本件実用新案の構成要件の一部である前記の具体的構成が記載されていない。

そして、本件実用新案は、前記の具体的構成により、明細書に記載のように、不凝結ガスと使用熱媒との混合蒸気を小容器内に放置して、使用熱媒蒸気を液化し、該液を細管を通して筒状加熱容器に返し、不凝結ガスはガス抜管より排出されるので、加熱容器の糸の接触部に不均一な温度分布を生ずることがなく、蒸気の循環が良くなるという、甲第三号証ないし第七号証に記載のものににも、甲第三号証及び第八号証に記載のものにも期待しえない、格別の作用効果を奏するものと認められる。

したがつて、本件実用新案は、甲第三号証ないし第七号証に記載のものに基いても、また、甲第三号証及び第八号証に記載のものに基いても、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

別紙第三図面

<省略>

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